定年・退職のお金ガイド2026|退職金・年金・税金・老後資金
最終更新: 2026年3月
定年・退職は、収入の大きな転換点です。退職金の受け取り方ひとつで税金が数十万円変わることもあり、年金の受給開始時期の選択は老後の生活水準を大きく左右します。このガイドでは、退職金の税金、年金の繰上げ・繰下げ、退職後の健康保険、iDeCoの受取、老後資金の必要額、介護費用まで、2026年の最新制度に基づいて網羅的に解説します。
1. 退職金の受け取り方と税金(一時金vs年金)
退職金の受け取り方は大きく「一時金」「年金」「一時金+年金の併用」の3パターンがあります。受け取り方によって税金が大きく異なるため、慎重な判断が必要です。
退職一時金として受け取る場合
退職金を一時金で受け取る場合、退職所得控除という大きな非課税枠があります。控除額は勤続年数によって決まります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年) |
例えば勤続38年の場合、退職所得控除は800万円+70万円×18年=2,060万円です。退職金が2,060万円以下なら、税金はゼロになります。
退職所得控除を超えた部分も、課税対象は超過額の2分の1のみ(分離課税)。例えば退職金2,500万円、勤続38年の場合:
退職金2,500万円 - 退職所得控除2,060万円 = 440万円
課税退職所得 = 440万円 × 1/2 = 220万円
所得税 = 220万円 × 10% - 97,500円 = 約12.3万円
住民税 = 220万円 × 10% = 22万円
税金合計 = 約34.3万円(実効税率わずか1.4%)
年金として受け取る場合
退職金を年金形式で受け取る場合、雑所得(公的年金等)として毎年課税されます。公的年金等控除が適用されますが、退職一時金の退職所得控除ほど有利ではありません。
ただし、年金受取には運用益が付く(企業の予定利率で運用される)というメリットがあります。予定利率が高い企業では、年金受取の方が総受取額が多くなる場合もあります。
一般的には、退職所得控除の範囲内は一時金で受け取り、超過分は年金で受け取る「併用」が最も税負担が少なくなるケースが多いです。
退職金額と勤続年数から手取り額をシミュレーションできます。
2. 公的年金の仕組み(老齢基礎年金・老齢厚生年金)
日本の公的年金は「2階建て」の構造です。1階部分が全国民共通の老齢基礎年金(国民年金)、2階部分が会社員・公務員が加入する老齢厚生年金です。
老齢基礎年金
20歳から60歳までの40年間すべて保険料を納付した場合、満額で年額約81.6万円(月額約6.8万円)が支給されます(2026年度)。未納期間がある場合は、その分が減額されます。
老齢厚生年金
厚生年金の加入期間と報酬に応じて、基礎年金に上乗せされます。計算式は概算で「平均標準報酬月額 × 5.481/1000 × 加入月数」です。
| 現役時代の平均年収 | 加入期間 | 老齢厚生年金(年額) | 基礎年金と合計(年額) | 月額換算 |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 38年 | 約80万円 | 約162万円 | 約13.5万円 |
| 500万円 | 38年 | 約100万円 | 約182万円 | 約15.2万円 |
| 600万円 | 38年 | 約120万円 | 約202万円 | 約16.8万円 |
| 800万円 | 38年 | 約160万円 | 約242万円 | 約20.2万円 |
夫婦2人の場合、夫の厚生年金+妻の基礎年金で月額約20〜25万円が一般的な受給水準です。年金からは所得税・住民税・社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)が天引きされるため、手取りは額面の85〜90%程度になります。
厚生年金に20年以上加入した方が65歳になった時点で、65歳未満の配偶者がいる場合は「加給年金」(年額約40万円)が加算されます。配偶者が65歳になると加給年金は終了しますが、代わりに配偶者の基礎年金に「振替加算」が加わります。
年収と加入期間から将来の年金額を計算できます。
3. 年金の繰上げ・繰下げ受給の損益分岐点
年金の受給開始は原則65歳ですが、60歳に繰上げまたは75歳まで繰下げが可能です。繰上げると減額され、繰下げると増額されます。
| 受給開始年齢 | 増減率 | 月額の例(基礎年金満額の場合) |
|---|---|---|
| 60歳(5年繰上げ) | -24.0% | 約5.2万円 |
| 63歳(2年繰上げ) | -9.6% | 約6.1万円 |
| 65歳(原則) | 0% | 約6.8万円 |
| 67歳(2年繰下げ) | +16.8% | 約7.9万円 |
| 70歳(5年繰下げ) | +42.0% | 約9.7万円 |
| 75歳(10年繰下げ) | +84.0% | 約12.5万円 |
繰上げの減額率は1ヶ月あたり0.4%(2022年4月以降に60歳到達の方)、繰下げの増額率は1ヶ月あたり0.7%です。一度決めた受給開始年齢は変更できないため、慎重に判断しましょう。
損益分岐点
繰上げ受給の損益分岐点:60歳繰上げの場合、約81歳で65歳開始と総受取額が同じになります。81歳より長生きすれば65歳開始の方が得です。
繰下げ受給の損益分岐点:70歳繰下げの場合、約82歳で65歳開始と総受取額が同じになります。82歳より長生きすれば70歳繰下げの方が得です。75歳繰下げの場合は約87歳が損益分岐点です。
日本人の平均寿命は男性約81歳、女性約87歳ですが、65歳まで生存した方の平均余命は男性約20年(85歳)、女性約25年(90歳)です。健康状態と貯蓄に余裕があれば、70歳前後まで繰下げるのが合理的な選択肢です。
繰下げによる増額は、年金額が増える分だけ所得税・住民税・社会保険料も増加します。また、遺族年金は繰下げ増額が反映されません。配偶者の年齢や健康状態も考慮して判断しましょう。
4. 退職後の健康保険(任意継続vs国保)
退職すると会社の健康保険から外れるため、新たな健康保険に加入する必要があります。選択肢は主に3つです。
| 選択肢 | 特徴 | 保険料の目安 |
|---|---|---|
| 任意継続被保険者 | 退職前の健康保険に最長2年間加入 | 退職時の標準報酬月額×保険料率(全額自己負担) |
| 国民健康保険 | 市区町村の国保に加入 | 前年の所得に基づく(自治体により異なる) |
| 家族の扶養 | 配偶者等の健康保険の被扶養者に | 0円 |
任意継続は、退職前の保険を最長2年間継続できる制度です。保険料は会社負担分もすべて自己負担となるため約2倍になりますが、標準報酬月額に上限があり(協会けんぽの場合、月額30万円が上限)、高収入だった方は国保より安くなるケースが多いです。
国民健康保険は前年の所得に基づいて保険料が決まります。退職直後は前年(在職中)の高い所得で計算されるため、保険料が非常に高くなる傾向があります。2年目以降は年金収入ベースの計算になるため大幅に下がります。
退職後の年収が180万円未満(60歳以上)で、扶養に入れる家族がいる場合は、家族の扶養に入ると保険料がゼロになるという特徴があります。
一般的な戦略としては、退職直後の1〜2年は任意継続を利用し、その後は国保に切り替えるのが保険料を抑える方法です。
5. iDeCo・企業型DCの受け取り
iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(企業型確定拠出年金)は、60歳以降に受け取りが可能です。受け取り方は退職金と同様に「一時金」「年金」「一時金+年金の併用」から選べます。
一時金で受け取る場合の注意点
iDeCo・企業型DCを一時金で受け取る場合も退職所得控除が適用されます。ただし、退職金とiDeCoの退職所得控除は別々に計算できるわけではなく、重複する勤続期間は通算されます。
退職金を先に受け取り、その後にiDeCoを一時金で受け取る場合、退職金の受取から一定期間(現行制度では前年以前19年以内)に退職金を受け取っていると、退職所得控除が調整されます。
退職金とiDeCoの受取タイミングは税金に大きく影響します。
60歳でiDeCoを一時金受取→65歳で退職金受取とすると、退職所得控除を最大限活用できる場合があります。個別の事情によって結果が異なるため、シミュレーションで比較検討してください。
年金で受け取る場合
年金として受け取る場合、公的年金と合算して雑所得(公的年金等)として課税されます。公的年金等控除が適用されますが、公的年金と合算されるため控除枠を超えやすく、税負担が増える可能性があります。65歳以上の公的年金等控除は年110万円です。
一時金・年金の受け取り方別の税金を比較できます。
6. 老後資金の必要額と準備
老後資金の必要額は「老後の支出 - 老後の収入(年金等)」で計算できます。
老後の生活費
総務省の家計調査によると、65歳以上の夫婦世帯(無職)の月平均支出は約26〜28万円です。一方、年金等の収入は約22〜24万円で、毎月約3〜5万円の赤字が生じています。
| 項目 | 夫婦世帯(月額) | 単身世帯(月額) |
|---|---|---|
| 食費 | 約7万円 | 約4万円 |
| 住居費 | 約1.5万円(持ち家前提) | 約1.3万円 |
| 光熱・水道 | 約2.2万円 | 約1.5万円 |
| 交通・通信 | 約3万円 | 約1.5万円 |
| 保健医療 | 約1.6万円 | 約0.8万円 |
| 教養娯楽 | 約2.5万円 | 約1.5万円 |
| その他 | 約9万円 | 約4万円 |
| 合計 | 約27万円 | 約15万円 |
老後資金の必要額
65歳から90歳(25年間)の老後を想定した場合:
毎月の不足額:27万円(支出)- 23万円(年金手取り)= 4万円/月
25年間の不足額:4万円 × 12ヶ月 × 25年 = 1,200万円
+ 特別出費(自宅の修繕、車の買替、旅行等):500〜1,000万円
+ 介護費用の備え:500〜1,000万円
合計で2,200〜3,200万円が老後資金の目安
いわゆる「老後2,000万円問題」は2019年に話題になりましたが、実際にはライフスタイルや年金額、住居の状況(賃貸か持ち家か)によって大きく異なります。年金の手取りだけで生活費がまかなえれば、必要な老後資金は特別出費と介護費用の備えだけで済みます。
退職金がある場合、それを老後資金の柱として活用できます。退職金2,000万円+貯蓄500万円+iDeCo/NISA 500万円で合計3,000万円を確保できれば、標準的な老後は問題ないでしょう。
年金額・生活費・特別出費から老後に必要な資金をシミュレーションできます。
7. 介護費用の目安
介護は多くの人が直面する可能性のある問題です。生命保険文化センターの調査によると、介護が必要になった場合の平均介護期間は約5年1ヶ月(61.1ヶ月)です。
介護にかかる費用
| 費用項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 一時的な費用(住宅改修・介護用品等) | 平均約74万円 |
| 月々の介護費用 | 平均約8.3万円 |
| 平均介護期間 | 約5年1ヶ月(61.1ヶ月) |
| 介護費用の総額 | 約580万円(74万円+8.3万円×61ヶ月) |
公的介護保険により、介護サービスの自己負担は原則1割(所得に応じて2割・3割)です。在宅介護の場合、要介護3で月約27万円分のサービスが利用でき、自己負担は月約2.7万円です。
特別養護老人ホーム(特養)の場合、月額約10〜15万円(食費・居住費込み)が自己負担の目安です。民間の有料老人ホームは月額20〜30万円以上かかる場合もあります。
介護費用の備えとしては、500〜1,000万円程度を目安に準備しておくと安心です。介護保険の高額介護サービス費制度により月額の自己負担に上限があるため、制度を理解しておくことで過度な心配は不要です。
介護レベルや期間に応じた費用の目安を計算できます。
よくある質問
- 一般的には、退職所得控除の範囲内(勤続38年なら2,060万円まで)は一時金で受け取る方が税負担が少なくなります。控除を超える部分は年金受取も検討しましょう。ただし、企業の予定利率や個人の所得状況によって結果が異なるため、シミュレーションで比較検討してください。
- 健康状態と貯蓄に余裕があれば、70歳前後まで繰下げるのが合理的です。70歳繰下げなら年金額が42%増額され、82歳以上生きれば65歳開始より総受取額が多くなります。65歳時点の平均余命(男性約20年、女性約25年)を考慮すると、繰下げ受給が有利になる可能性が高いです。
- 退職直後の1〜2年は任意継続(退職前の健康保険を全額自己負担で継続)が有利なケースが多いです。前年の所得が高いため国保の保険料が高くなるためです。その後は国保に切り替えるか、年収180万円未満(60歳以上)なら家族の扶養に入ることも検討しましょう。
- 夫婦世帯で65歳から90歳の25年間を想定した場合、生活費の不足分+特別出費+介護費用の備えで約2,200〜3,200万円が目安です。ただし、年金額が多い方や持ち家で住居費が少ない方はより少額で済みます。退職金+貯蓄+iDeCo/NISAで準備しましょう。
- 生命保険文化センターの調査では、介護にかかる一時的費用が平均約74万円、月々の費用が平均約8.3万円、平均介護期間が約5年1ヶ月で、総額約580万円が平均です。ただし、特別養護老人ホームや有料老人ホームを利用する場合は月額10〜30万円以上かかることもあり、総額は大きく変動します。